断片的な・・・
2003年10月15日私は、見上げている。
上棟されたての柱と、屋根の枠からのぞく青空を。
澄んだ秋空。
イチバン好きな季節。
施工してくれている大工さんが横を通る。
「あ、ごめんなさい」
「いやいや。どなたも感慨深いかおをなさるものですよ」
「そうですか」
私は微笑む
「おもしろい家になりそうですね」
「ありがとう」
しっかりした基礎のうえに、柱と同じように私は立って、空を見ている。
断片的に・・・
形作られていく、箱。
とても、変わった 箱。
私はそれを、道路の少し離れたところから見ている。
隣りでケイくんも、同じように見ている。
「ここは、気持ち良いところだから、訪れるみんなにも気に入られるはずだね」
「うん、そうだね」
箱は、雨風から私たちを守り
穏やかで暖かな空間をつくってくれる。
断片的に・・・
お父さん、お母さん、おばあちゃんが
いる。
「変なのー」
お父さんが言う
「いいじゃない、この子達らしくて」
お母さんが言う
「キレイにしておかないとおばあちゃんが片づけに来るよ!」
おばあちゃんが言う
あははははは、と笑う。
「実家に泊りに行く、のは普通だけど、逆だってたのしいじゃない?」
私の提案に、また、笑う。
断片的に・・・・
吹き抜けの高い天井
南の窓からいっぱいに差し込む光
せわしなく動く私。
ゆるやかで広い階段をのたのた降りてきて
寝ぼけてテーブルについたまま
動かないケイ君。
「ほら、コーヒーでものんで」
「牛乳は〜?」
「はいはい」
朝弱い二人は、心地よい室内をバタバタ走り回る。
「いってきまーす」
「いってらしゃい!」
キスをして見送り、リビングから見える愛車にのるケイ君に
手を振る。
横には、咲き掛けた白木蓮の小ぶりな木。
断片的に・・・
部屋を包むグラタンのにおい。
部屋を包むケーキのにおい
部屋を包むローストチキンのにおい
オーブンから出てくる美味しいものたち。
「おまたせぇ」
「わぁ(^0^)」
ご飯を食べるときは、テレビを消して。
断片的に・・・
夏祭でとった水風船ヨーヨーを
どちらが上手に出来るか競争。
お友達も、笑っている。
部屋で、冷えたビールを飲むケイ君
話が弾む夏の夕べは
中庭で枝豆とポテチをつまんで。
断片的に・・・
備長炭がはいった七輪の上で
オモチが膨らみかけている。
隣りに、小さく切ったおいもも乗っている。
こたつでぐでーっとしている二人。
ぐでぐでぐでぐで。
「あ、焼けたよ」
とびおきるケイ君。
こたつのはしっこにあったみかんが落ちる。
「週末はスキーだよスキー」
「楽しみ楽しみ」
なんにでも牛乳の私たちは、
オモチをたべながら、牛乳を飲む。
断片的に・・・
長く濃いまつげをゆらしながら、
リビングいっぱいにピアノの音が響く。
ケイ君の大好きな、西村ゆきえさんの曲を
ケイ君の指が奏でている。
私は後ろでココアを飲みながら
日記を書いている。
お互いの指が、違う鍵盤で
自分たちを紡いでいる。
たまに間違えながら、
ケイ君はピアノをひき
私は日記をかく。
「やっぱり難しいや」
間違えて気恥ずかしそうなケイ君に、私はちょっと笑う
「最初から出来たらコワイよ」
再び譜面に向かい、家はピアノの音に包まれる。
断片的に・・・・
二階の寝室から窓を覗くと雨。
「あめだー」
ごそごそ起きだして洗濯物を諦める。
小さな庭を濡らす雨
中庭を濡らす雨
断片的に・・・・
がやがやにぎやかな声
「足りてる?」
「足りてる 足りてる」
はじける笑い声。話し声
せわしなく楽しく動く 私とケイ君
リビングが狭く感じるほど
お友達がいっぱい。
私は腕によりをかけて手料理を振る舞い
ケイ君はせわしなくホストに努める。
皆でカンパーイ!
近所でいちばんうるさいことだろう。
友達のコドモも、もう小学生。
今度、彼女が結婚するんだって!なんて話しながら
春が近づいてきているねーとか
わいわい がやがや にぎやかに
断片的に・・・
ねぇ、ケイ君、このうちも、もう30年だね
やっぱり素敵な家だね
毎日が楽しくて
毎日が穏やかで
ずーっとケイ君はやさしくて
私はとっても幸せで
あと、30年くらい、よろしくね。
ずーっと 一緒だよ。
今度、あのこの娘さんが結婚するんだって
めでたいねぇ。
私たちも、こんな時期だったものね。
おじいちゃん おばあちゃんな歳だけど
子供も孫もいないままね。
今度は誰のあしながおじいちゃん あしながおばあちゃんになろうかしらね?
断片的に・・・・
幸せな未来を想像して
それをつないでいくだけ
そうしたいから
そうなりたいから 目指すだけ。
大きい家が欲しい訳じゃない
ただ、いつも二人で
いつもいたいだけ。
幸せをずーっとずーっと・・・
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